佐伯市立彦陽中学校

「はだし運動」といえば一般的に小学校での実施例が多かったと思うのですが、大分県佐伯市立彦陽中学校では、中学校としては珍しい「はだし運動」が実践されていました。「はだし運動」を実施していた当時の状況について、文献等により調査しましたのでその結果を紹介したいと思います。

まず紹介するのは、「21世紀シンポジウム はだしのすすめ」です。これは、おそらく1984年5月6日に開催された、はだし教育に関するシンポジウムのレジュメであると思われるのですが、その中に「はだしと薄着の体力づくり」題して彦陽中学校のはだし教育の様子が書かれています。その内容の一部を以下に抜粋しました。
「はだしと薄着の体力作り」

1.はじめに
本校は、体力つくりの効果的場面を指定し、それらの活動は、可能な限りはだしと薄着の励行を重視している。

3.研究の立場と目的
(1)研究の立場
この研究は、主として、体育・スポーツ活動を中心に、はだしと薄着の励行によっての体力の増強に焦点をおいて、実践的研究を推進し、体力つくりとあわせて、学校教育目標に示す、精神面、特に学力にかかわるといわれる性格特性の変容も図ろうとする立場をとることにした。

4.効果的場面とその実践
(2)効果的場面における実践
ア 教科体育の実践
教科体育の目標を達成することはもちろんであるが、他の活動の基礎・基本の技能を育て、さらに。その統合を図ると同時に、はだしによる体力つくりの重要性を認識させ、意欲化を図る。
本校では、教科体育を中心に、はだしと薄着の体育を進めている。3月から12月まで、男子はTシャツ・短パン、女子はTシャツ・ブルマで通している。また体育実技も可能な限りはだしで実施し、運動靴を着用する場合、靴下は一年中使用していない。
このように、はだしの励行は、予想以上に定着し、校内で靴下をはく生徒はほとんどいなくなり、家庭から素足で登校する生徒も多くなった。
また、教科体育では、体力向上の面から、格技を見直し、はだしと教科体育の関連から、相撲を積極的に取りあげることにした。相撲の基本動作や基本技を組み合わせ、本校独自の相撲体操を創作し、補助運動や補強運動に用いたり、運動会における男子推薦種目として取り上げ公開した。
イ 全校体育
ゆとりの時間を利用して、週三日、それぞれ25分間を全校体育として設定し、サーキット(雨天時ストレッチ体操)、ゲーム、体力測定をセットして、ローテーション方式で実施する。この全校体育も、ジョギングからはだしで実施している。
ウ 体育的活動
相撲大会、なわとび大会、水泳大会、遠泳大会、耐寒訓練、マラソン大会、運動会を体育的活動として取り上げ、はだし・薄着の励行の場面として実施する。
エ 部活動
本校の部活動は、全員入部制をとり、体育部に85.9%の生徒が所属し、残り14.1%の生徒が、三つの文化部に所属している。いずれも放課後を利用して活動している。ここでも、はだしと薄着を励行している。とりわけ、新入生体力つくりは、特に、はだしの効果的な場面として重視している。例年、4月10日ごろから5月上旬にかけて約1ヶ月間、ジョギング・体操・ダッシュ・集団行動・サーキット等を内容として、すべてはだしで実施する。
オ 学校農園(勤労生産的活動)
はだしの効果を期待し、学校農園作業はもちろんのこと、学校から農園までの往復2kmの農道も、はだしで通った。そして、収穫の喜びを十分味わうことができた。

5.研究の成果
イ 性格・行動の変容
また、55年度は、全体集会中に立ちくらみが多くみられたり、原因不明の頭痛、腹痛等を訴え、保健室を利用した生徒が延べ2,185件あったが、57年度は、936件と、半数以下に減少し、傷害件数も少なくなった。このことは、はだしと薄着の励行と関連づけられているように思われる。さらに、はだしと薄着の励行は、身体の防衛体力を高めているように考えられるし、体育ぎらいの生徒が少なくなり、何事にも進んで取り組むようになってきた。
ウ 足紋の形態的変容
足紋調査は、現在の三年生が一年生の10月に実施した。この調査の結果、119人中偏平足とみられる生徒が、男子60人中16人(26%)、女子59人中29人(49%)、全体で45人(38%)の偏平足がいた。
追跡調査は、三年生の9月、「はだしの運動会」後に実施し、検討した結果、中学生段階においても、形態的な変容を明らかに認めることができた。

以下も前述と同じタイトルの別冊子文献ですが、記載内容は少し異なっています。
(前略)
そうしたとき、文部省から体育の推進校と指定され、それを契機にはだしの実践を始めることになりました。
つまりは、体育・スポーツ活動を中心に、はだしと薄着の励行によって体力づくりと、精神面、特に学力にかかわるといわれる性格特性の変容も図ろうと意図したわけです。
(1)効果的場面における実践
ア.教科体育の実践
はだしと薄着の体育ということで、3月から12月まで男子はTシャツ・短パン、女子はTシャツ・ブルマで体育を行っている。体育実技も可能な限りはだしで実施し、運動靴を使用する場合、靴下は1年中使用していない。
また、特徴として、格技を見直し、相撲を積極的に取り上げた。女子については、ナギナタ、縄とびをさせることにより、男女ともにはだしにする機会をつくった。
イ.全校体育
ゆとりの時間を利用し、週に3日、それぞれ25分間を全校体育として設定し、サーキット(雨天時ストレッチ体操)、ゲーム、体力測定をセットして、ローテーション方式で実施している。もちろんこの全校体育も、ジョギングからはだしで実施。因に、企画、運営は生徒が行っている。
ウ.部活動
全員入部制である。体育部に85.9%、残り14.1%の生徒が文化部に所属している。ここでもはだしと薄着を励行している。
エ.学校農園(勤労生産的活動)
9.8アールの休耕地を借りて、農園作業を体験させている。農園までの往復2kmの農道もはだしで通う。
(中略)
他にも、特にユニークな点は、小学校時代便利で楽な生活にどっぷ りとつかっていた新入生達に対して行われる、はだしによる体力づくりです。入学して1か月間程、ジョギングや体操といったことをはだしで実践させ、そこから希望する部へ入部するという制度をとっています。

ちなみに、同書の中には、彦陽中学校が1980年~1982年に「文部省体力つくり推進指定校」となるので、はだし教育が始まったのはこの頃であると考えられます。

同じ時期の朝日新聞(1984年5月7日号・夕刊)に、シンポジウム「はだしのすすめ」というタイトルの記事が出ています。その一部に彦陽中学校の取り組みの内容が以下の通り紹介されていました。
三月から十二月まではだしを通し、農園作業に取り組ませたら、朝頭痛を訴えたり、けがをしたりする生徒が減り、物を大事にするようになった。

続いて、現代書林から1988年に出版された「大地を駆ける子どもたち」(飯野節夫著)という書籍にも、当時の裸足教育の様子が紹介されていますので、以下にその内容を引用します(先述の「21世紀シンポジウム」と重複する内容の部分も多いです)。
この学校の特色は、教科体育を中心に、ハダシと薄着の教育を進めていることにあります。三月から十二月までは、男子はTシャツ・短パン、女子はTシャツ・ブルマでがんばりとおしています。また、体育実技もできうるかぎりハダシで実施し、運動靴を使用する場合でも、靴下は一年中着用していない点は、特筆されてよいでしょう。
このように、ハダシの励行は、予想以上に定着し、校内で靴下をはく生徒はほとんどいなくなり、家庭から素足で登校する生徒も多くなったということです。
この学校のハダシ教育は徹底していて、全校体育はもちろん、相撲大会やなわとび大会などの行事も、さまざまな部活動も、そして学校農園さえも、ハダシで行われています。
…中略…
①教科体育の実践
教科体育の目標を達成することはもちろんであるが、他の活動の基礎・基本の技能を育て、その統合を図ると同時に、ハダシによる体力づくりの重要性を認識させ、意欲化を図る。
…中略…
②全校体育
ゆとりの時間を利用して、週三日、それぞれ二五分を全校体育として設定し、サーキット(雨天時ストレッチ体操)、ゲーム、体力測定をセットして、ローテーション方式で実施する。この全校体育も、ジョギングからハダシで実施している。
③体育的活動
相撲大会、なわとび大会、水泳大会、遠泳大会、耐寒訓練、マラソン大会、運動会を体育的活動として取り上げ、ハダシ・薄着の励行の場面として実施する。
④部活動
…中略…
いずれも、放課後を利用して活動している。ここでも、ハダシと薄着を励行している。とりわけ、新入生体力づくりは、とくに、ハダシの効果的な場面として重視している。例年四月十日ごろから五月上旬にかけて約一カ月間、ジョギング・体操・ダッシュ・集団行動・サーキット等を内容として、すべてハダシで実施する。
…中略…
⑤学校農園(勤労生産的活動)
ハダシの効果を期待し、学校農園作業はもちろんのこと、学校から農園までの往復二キロメートルの農道も、ハダシで通った。そして、収穫の喜びを十分味わうことができた。

また、1980年代前半頃に彦陽中学校に通っていた方のブログ の中にも、以下のような記述がありました。 asi
これらの内容は、「大地を駆ける子どもたち」の記述とほぼ同じであることが分かります。それにしても、マラソン大会が「裸足」ということは、校内だけでなく一般の道路も裸足のまま走り回っていたのでしょうか。引き続き情報収集を進めたいと思います。

さらに詳細を確認するため、インターネットの掲示板に意見を募集してみました。 asi asi asi asi 上記文献の記述と比べると、若干活動内容がマイルドになっているように思えます。これは年代の差が理由かも知れません。

ちなみに、全国はだし教育研究会が1985年に主催したシンポジウムのレジュメの巻末に、全国はだし教育研究会の役員一覧がありますが、その中に「大分県彦陽中学校」の名前もありますので、程度の差こそあれ、はだし教育が熱心に行われていたことは間違いないようです。

彦陽中学校の裸足運動に関する情報をお持ちの方は、以下のフォームよりその内容を教えていただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

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2022年11月26日公開 2023年3月4日更新